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キヲクロスト第七話「愛と絶望の使者、東郷・デリケート・ヒゲキ」
2019.1.7
「……まあ、私たちがちょ~っと本気を出せばこんなもんよ!」
そう言ってマドカが高らかに笑う。三人の攻撃が通ったところは地面が丸ごと削れ、敵ヴィジョンズは跡形もなく消し飛んでいた。
「う……俺はいったい……?」
「アキ、気がついたのね!」
目を覚ましたアキにマドカが駆け寄る。その後ろから、シンがアキへと詰め寄る。
「よう、裏切り者」
「シン!」
マドカがシンをたしなめるが、構わずシンは続ける。
「いいか、俺はお前を絶対に認めない」
その鋭い眼光には、明らかな敵意がにじんでいた。
「ちょっと、やめなさいよシン!」
「ごめん、俺には今までの記憶がなくて……だから教えてくれ、俺はいったい何をしたんだ?」
「……記憶喪失?そうか、なら教えてやる。お前は――」
シンが答えようとしたその時、金切り声のような警報音が屋内に鳴り渡った。
「よし、書き換えが終わったぞ!急いでここを退避する!」
コウがそう叫ぶと、ズシンと大きく建物が揺れ始めた。
「今度は何なの!?」
「ロキを侵入させることには成功したが、最後の力で自爆プログラムを起動された。あと30分もしないうちに、ここは跡形もなく崩れ落ちる。早く脱出しないと瓦礫の下に埋もれることになるぞ!」
コウがそう促すと、シンはアキを一瞥(いちべつ)して吐き捨てる。
「ちっ、まあいい。この話はあとだ」
「あ~ら、悪い子ちゃんたち、はっけ~ん!」
アキたちが向かおうとした出口の方から、野太い声が聞こえた。声の出どころに目をやると、そこにはゴマ塩頭の大柄な男が立ちはだかっていた。
「もう!次から次へと何なの!」
「漢(おとこ)であっても男にあらず、乙女(おとめ)であっても女になれない……悲劇のヒロイン、東郷・デリケェェェ~~ット・ヒゲキ!参上!」
ゴマ塩頭の男はそう叫びながら、まるでボディビルダーのようにサイドチェストを決める。
「これはまた……ひどいのがきたわね……」
「でも気をつけて。彼、見た目はあれだけど……相当に、強い」
「んん~~~?なんか悪いネズミがいると聞いて来てみたら思わぬ収穫だわ、うふんアキちゃんおひさ~~!!!それにぃ、コウくんも♡」
ヒゲキと名乗る男がこちらに向かってバチンとウインクを寄こす。
「ヒゲキ……こんなところでお前に会うとはな」
「コウさん、あいつを知っているの?」
「ああ、お前たちの勝てる相手じゃない。私が合図したら全員一斉に、全力でここから逃げるんだ」
ヒゲキを見据えたままそう促すコウの表情は硬い。たしかにゴマ塩頭の男は口調こそおどけた喋り方はしているが、その容貌(ようぼう)からは並々ならぬオーラが放たれている。
「おい、あの気持ち悪いのはお前の知り合いか?」
シンがじろりとアキを睨(にら)みつける。
「いや、俺は……」
「ちょっと!さっきから乙女に向かってあんまりじゃない!?まったくもう、ぷんすかしちゃうわ!……まあいいわ。そうね、知り合いも何も、アキちゃんのあんなこともこんなことも知っちゃってるくらい、ふか~い間柄よ。さあ、よーく思い出してごらんなさい。ほうら、アタシのカ・オ」
ヒゲキはそう言ってアキに再びウインクする。途端に脳裏をフラッシュバックが駆け巡った。
――『絶望のその先にこそ未来はあるの』――
――『さあ、創造なさい、聖杯の王よ。あなたが望むままの世界を!』――
目まぐるしくアキの記憶の中にあった映像が次々と流れていく。
「あ……」
そうだ、この男は――。
アキの記憶の中――ヒカリを殺した屋上で、最後にアキの目の前に現れた、あの男だった。