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キヲクロスト第十四話「ヒゲキ、再来」
2019.3.19
「……ホワイトレイブン?待ってください、僕たちはクランクロウです!」
アキに突きつけられたムネヒロの刃がギラリと光る。
「なんだあ、その『くるんくるん』ってのは?てめえら、助かろうとして適当なこと抜かしてると承知しねえぞ!」
数分後、そこには地面に頭をこすりつけるように土下座するムネヒロの姿があった。
「すまねえ!無関係の女子供に切りかかるたあ、武士の恥だ!」
「いえ、そんな……もともと攻撃を仕掛けたのは僕たちのほうですし……」
アキの言葉に、はっとした表情でムネヒロは顔を上げる。
「……そういやそれもそうだな。だがしかし……問答無用で反撃した俺にも責任はある。ここは仲良く喧嘩両成敗ということで手打ちにしようや!」
それまでの神妙な面持ちとは打って変わって、あっけらかんとした表情でムネヒロは笑う。
「だけどどうして、金王坂さんはこんなところにいたんですか?」
「おう、よく聞いてくれた!俺の仕事はヴィジョンズ狩りというのをやっていてな。人に悪さをするヴィジョンズやリアライザどもをぶっ倒して生計を立ててるんだよ。なんでもこの近辺にとんでもねえヴィジョンズがいるらしくてな、ここの廃モールが怪しいと踏んで乗り込んでたのさ!」
「ヴィジョンズ狩り?……でも、ヴィジョンズなんて、本当に倒したのかどうかわからないんじゃない?」
アスハの問いにムネヒロは答える。
「まあそこは信頼関係だな。つっても食うにも困るこんなご時世だ、依頼の8割は踏み倒されるだがな!まあ、『情けは人の為ならず』ってやつだ、ヴィジョンズの被害が抑えられるんならそれでいいってことよ!」
そう言ってガハハと笑うムネヒロに、アキは不思議な感情を覚えていた。こんな荒廃した世界でも、彼のように温かい心を持っている人がいるのか。誰もが自分が生きるので精いっぱいの中、他人のために戦える――そこに彼の強さの秘密を見た気がした。
「そういえば、さっきホワイトレイブンがどうとか――」
「おっと、おしゃべりはここまでらしい。本当の敵のお出ましだ」
「……アキ、くる。この気配、あいつよ」
アスハが警告すると同時に、アキたちの目の前に空中から大男が降ってきた。
「あーら、アキちゃん、また会ったわねえ!代々木のブレインサーバーに、わざとここの情報を残しておいた甲斐があったわあ!」
「……ヒゲキ!」
「ご機嫌いかが?せっかく本当の力に目覚めさせてあげたのに、まーた腑抜けた顔しちゃってるじゃない。ざーんねん」
「てめえのその服……今度こそホワイトレイブンだな?」
「あら、そちらのイガグリくんはどちら様かしら?うーん、ちょっと記憶にないわねえ」
「てめえにゃなくとも、こっちにはあるんだよ!」
そう言ってムネヒロは間髪入れずにヒゲキに斬りかかる。
「へえ、あなた面白い体してるじゃない。まさか『半分ヴィジョンズ』なんてね。できることなら持ち帰って、体の隅々(すみずみ)まで徹底的に調べたいわ」
「わからねえだと?ふざけるな!なら、これを見せればピンとくるか?」
再び間合いを取ったムネヒロはそう言いながら服の袖をまくる。そこには『392』と記した、入れ墨のようなものが彫られていた。
「なぁるほど。それで合点(がてん)がいったわ、あなた、『施設』育ちだったのね」
「今日こそ、弟の仇を討たせてもらう!」
その言葉に、はてとヒゲキは首をかしげる。
「……弟?何言ってるのかしら。リアライザとして生まれるべく、試験管の中で生を与えられたあなたたちに、兄も弟もないでしょうに」
「人を人と思ってないてめえらには、到底理解できない理屈だろうよ!」
ムネヒロとヒゲキのヴィジョンズが激しく打ち合う。弾かれたムネヒロの刀の腹を、ヴィジョンズのフックが追撃する。真っ二つに折られた刀の先が、円を描きながら壁に突き刺さった。
「ちっ、この得物はけっこう気に入ってたんだけどな、さすがに一筋縄じゃいかねえか。なら、こっから先は拳と拳のガチンコ勝負だ!」
刀を捨て拳を構えるムネヒロの横に、アキとアスハが立つ。
「俺たちも一緒に戦います!」
「こいつぁ俺の喧嘩だ。お前らの加勢は必要ねえ」
「ヒゲキは俺の仇でもあります。俺たちにも戦う理由があります!」
「……そうか、なら止めねえ。こいつのニヤけ面を、いっちょ凍り付かせてやろうや!」