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キヲクロスト第八話「届かぬコトバ」
2019.1.9
キヲクロスト第七話「愛と絶望の使者、東郷・デリケート・ヒゲキ」
「どお?思い出した?あら、感動の再会に思わず言葉を失っちゃったみたいねえ」
「お前はいったい……俺は……?」
頭を抱えるアキをマドカが揺さぶる。
「アキッ!しっかりして、アキ!」
「あら、なーんだ。まだ自分のこと思い出してないの?もう、アキちゃんったら忘れんぼさんなんだからっ!」
「じゃあねぇ……その体に、思い出してもらいましょうかあっ!!」
ヒゲキがそう叫ぶと、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のヴィジョンズが目の前に現れた。そのヴィジョンズは、クラウジングスタートのような体勢をとると、恐ろしい速さでアキめがけて襲いかかってきた。
「ヴィジョンズッ!」
アキがヴィジョンズを召喚するも、間に合わない。かろうじて召喚できたヴィジョンズもろとも壁にたたきつけられる。
「カ……ハッ……」
なんとかアキのヴィジョンズが直撃を防いでくれたが、たった一撃で意識が飛びそうだ。
「よくもアキをっ!」
「やめろ、マドカッ!アスハッ!」
コウの静止もむなしくマドカとアスハのヴィジョンズが二人がかりで攻撃を仕掛けるが、ヒゲキのヴィジョンズはコンクリートの床を踏み抜いて、のけぞるようにそれをかわす。あの巨体で、バレエダンサーのような柔軟さだ。
「なによこいつ、見た目だけじゃなくて強さもデタラメじゃない!」
「ごめんなさぁい、女とナヨナヨした男とカマボコは嫌いなの、ア・タ・シ♡」
ヒゲキがそう言って中指を立てると、マッチョのヴィジョンズの回し蹴りが二人に襲いかかる。その一撃で、マドカとアスハは倒れたまま動かなくなった。二人が召喚したヴィジョンズも、光の粒となって霧散(むさん)する。
「マドカ……ッ!」
よろよろとマドカたちのもとへ向かおうとするアキに、ヒゲキがゆっくりと歩み寄ってくる。
「あーら、アキちゃん他人の心配してる場合?まず自分のことをどうにか……」
そう言いかけたヒゲキは、シンのヴィジョンズが投げたクナイを指に挟んでいた。
「ちっ、リアライザまで化け物かよ」
「人の話を遮(さえぎ)るような男は嫌いだけど、あなたのその目、嫌いじゃないわ。んふふ、ゾクゾクしちゃう♡」
標的を変えて、シンの方へと向かってくるヒゲキ。その進路にコウとそのヴィジョンズが立ちふさがる。
「まったく……頼むからみんな私の言うことを聞いてくれよ」
「あらあコウくん、ちょっと見ない間に立派なリーダーになったもんねえ。でも、アタシに勝てるなんて、まぁさか思ってないでしょうねえ?」
「……やってみないとわからないさ!」
コウのヴィジョンズが短剣で切りつけると、わずかではあるがヒゲキのヴィジョンズの硬質な肉体を切り裂いて、そこから黒い飛沫(しぶき)が吹き出した。
「……ふうん、ちょっと見ないうちにお毛々くらいは生えるようになったのかしら?でも、そんなんじゃアタシはアガらないわよっ!」
ヒゲキはそう言って猛烈な打撃を繰り出す。目にもとまらぬパンチのラッシュが、コウのヴィジョンズに叩き込まれる。
「くぅ…ッ」
ヴィジョンズに回すエネルギーが尽きたのか、コウがヒザをつく。ここにくるまでの連戦で、とうにコウの体力は限界を迎えていた。
「さあて、じゃあ残りもやっちゃいましょうかぁっ!」
再びヒゲキはシンへと向かって進撃を始める。力を込めたこぶしでシンのヴィジョンズをたやすく粉砕すると、光の残滓(ざんし)をかき分け、悠然とシンへと向かっていく。
「ちくしょう、ここまでか……」
「うおおおおお、ヴィジョンズッ!」
召喚したアキのヴィジョンズがヒゲキへ襲いかかる。
「へえ、一度消滅したヴィジョンズを再召喚するなんて、さすがは聖杯の王じゃな~い?でもノンノン、そんな弱っちい刃じゃあアタシには届かないわ!」
「馬鹿ッ!お前なにやってる!さっさとここから逃げろ!」
シンの静止をアキは振り払う。
「俺はもう誰も死なせないって誓ったんだ!たとえ勝てる見込みがなくても、俺は退かない!」
「あらあ、自らを犠牲にしてでも仲間を助けるなんて素敵じゃない」
アキの攻撃をたやすくいなしながらヒゲキはニタリと笑う。
「でも、それは本心かしら?ヴィジョンズの強さは精神力の強さ。信じる強さがヴィジョンズの力となるの。アタシは誰より筋肉の強さを信じてる。だからアタシは強いの」
「アキ、あなたは何を信じてる?仲間との信頼?いいえ、あなたたちにはとても信頼関係なんてものは結ばれていないと、あなたも薄々気づいているはずよ?だから、あなたは弱い」
倒れていたマドカが起き上がり、ヒゲキの演説をさえぎる。
「アキ……そいつの言葉に、耳を貸しちゃだめよ……」
「もっと自分に素直になりなさい、アキ。最愛の人を失い、記憶も失い、仲間からは疎(うと)まれ、そんなあなたに信じられるものは何が残ってる?」
ヒゲキはくつくつと笑う。
「そうね、たとえば……絶望とかねええええええ!!!」
ヒゲキのヴィジョンズがアキを叩き潰そうとしたその時、アキの全身を黒い闘気が包み込んだ。