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キヲクロスト第十三話「神様の砂遊び」
2019.3.14
「お前たちは別の任務に行っていたが、先日の宮益坂抗争の話は聞いているだろう?クランクロウ東京支部の人員の約5分の1を失った、未曽有(みぞう)の被害を出した激戦だった」
「ようやく戦線をここまで押し上げてきた私たちにも、多少の心の隙はあったのかもしれない。だがそれを差し引いても、敵本部のリアライザたちの力は、それまでのものとはケタ違いだった」
ここまで話すと、コウはすうと一呼吸を置いた。
「そんな化け物たちの中心にいたのが――アキだ」
「!?」
「暴走したアキの力はお前たちも見ただろう?私たちが初めて目にしたアキはまさにあの姿だった。しかもこちらの攻撃はもうひとりのリアライザにことごとく防がれる。最強の矛が、最強の盾を持っていたんだ。圧倒的な力の前に、次々と仲間たちが倒れていった」
「もうひとりの……リアライザ?」
「それはお前たちも知っている名前だよ。……ヒカリさんだ」
「ヒカリさん!?」
◆
「仲間たちのいくつもの屍を乗り越えて、なんとか私たちは彼女にだけは致命傷を与えることができた」
「それじゃあ、アキが言っていたヒカリさんは……」
「ああ。もう、いない」
「そんな……そんな話って……でもちょっと待って、今の話とアキの言ってた記憶、全然違うじゃない!」
「そうだな。そこには私も引っかかっていた」
「いったい、何があったの?」
「詳しくは私たちにもわからない。彼女を失ったアキはその骸(むくろ)を抱えたまま、突然苦しみだした。次の瞬間、突然辺り一帯に強烈な波動がはじけ飛んだ。敵も味方もみんな消えてしまったよ。私は……私だけが唯一、目の前の瓦礫(がれき)がうまく障壁になってくれたのか、無事だった」
「よろよろと瓦礫の下から這(は)い出ると、誰もいなくなった荒野に呆然とたたずむアキがいた」
「どういうわけか今は敵意を失っているが、こんな危険な少年は消しておくべきだ、そう思った。私は彼に銃口を突きつけた」
「その時に現れたのが、自らを予言者と名乗る女、『ウグイス』だ」
「それが……『ウグイス』……」
「女は言った。『この少年には文字通り、世界を創造する力がある。人類に福音(ふくいん)をもたらす救世主、聖杯の王。その力を生かすも殺すも、あなたたち次第』と……」
「世界を創造する力って……それこそ神の領域じゃない!そんな力が人間にあるなんて、とても信じられないわ!」
「だが現実に、私たちは神にも比肩(ひけん)する力を持っているじゃないか。ヴィジョンズだよ」
「それは……」
「ヴィジョンズの力はあらゆる物理法則を凌駕(りょうが)し、現実世界に干渉する。その力の最果てに、世界を創造する力があっても不思議はない」
「……つまりアキなら、メーティスによって滅ぼされたこの世界を作り直すことができるってこと?」
「さあ、実際はどうだろうな……信じるも半分、疑うも半分ってところだ。だが、彼がリアライザとして並外れた力を持っているのは事実だ。その力でこの戦争が止められるなら、それ以上は望まないさ」
コウが話し終えると、それまでじっと話を聞いていたシンがギリ、と歯噛(はが)みする。
「……ふざけるな」
「……シン?」
「……なにが救世主だ!なにが世界を創造する力だ!そんな子供の砂遊びのように世界を作り変える力が本当にあるとしたら、何のために俺は……俺たちは戦ってきたっていうんだよ!」
「……シン」
「やっぱり俺はあいつを認めない……決して認めてなるものか!俺は、俺の手で未来を切り開いてみせる!」
そう言い残すと、シンは一人で先に行ってしまった。マドカはシンを呼び止めようとその手を伸ばすが、むなしく空をつかんで止まると、そのまま力なく腕を下した。
「どうして、シンに何も言ってあげないのよ……一言、『お前の力が必要だ』って……」
「……それを言ったところで何になる?ヴィジョンズの強さは想いの強さだ。シンがアキを憎み、自らの力を渇望(かつぼう)するほど、それはあいつのヴィジョンズの力になる」
そう言い放つコウの頬(ほお)を、マドカの平手が弾く。
「……最低」
コウは地面に視線を落としたまま呟く。
「……ああ、最低だよ。言っただろう?この戦争を終わらせるためなら、私はどんな手段だって使ってみせると」