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キヲクロスト第十二話「リアライザ、強襲」
2019.3.13
「右前方から小型ヴィジョンズが2体、その30メートル後方に中型ヴィジョンズが1体」
「左上方のショップ内にも中型ヴィジョンズが1体。こちらにまだ気づいている様子はないけれど、念のためにつぶしておく」
「わかった!」
アスハの忠告通りに出現したヴィジョンズを倒し、ブレインサーバーが置いてあるという最上階へ向かう。
「……すごいな、アスハは」
感嘆するアキに、アスハは表情も変えず答える。
「別に私だけが特別なわけじゃない。リアライザなら、ヴィジョンズだけじゃなく何かしらの特性を持っているわ」
「……じゃあ俺にも、なにかそういう力があるんだろうか?」
じっと手のひらを見つめるアキにアスハは言う。
「……さあ。そればかりは実戦で見つけるしかないわ。急ぎましょう」
うながされてアキがついていこうとしたそのとき、アスハが右手を出してアキを制した。
「奥から強い波動を感じる。おそらくリアライザ。それも、かなり強い」
一気に緊張感が走る。カツン、カツンという靴の音だけが屋内に響く。暗がりから、ゆっくりと着流し姿の男が現れた。ヴィジョンズを召喚している様子はない。ならばすでにヴィジョンズを召喚しているこちらに分がある。先制攻撃で、そのまま勝負を決めることができるかもしれない。
ダンッ、とアキのヴィジョンズが一気に距離を詰める。
「いくぜ次郎丸。神明流居合術――」
すうう、と男が息を吸って構えをとる。
次の瞬間、キィン、という金属音が響き渡ったかと思うと、アキのヴィジョンズが持っていた長槍は粉々に叩きおられてしまっていた。
「おいおい、名乗りもしねえで攻撃たあ無粋なことするじゃねえか。まあ、もともとてめえらにゃそんなこと1ミリも期待してねえけどよお」
「アキッ!くる!」
男が地面を蹴りだすと、たった一歩で10数メートルもの距離が一気に縮まる。およそ人間の脚力ではなかった。
「まさかこいつ、ヴィジョンズなのか!?」
呼び戻したヴィジョンズで男を止め、手四つの形になる。
「おおし、スピード勝負の次は力比べといこうじゃねえか!」
男が力を込めると、ぎりぎりと次第にヴィジョンズが推し負けていく。
「ふん!」
男の頭突きでアキのヴィジョンズの体勢が崩れる。そしてそのままヴィジョンズの腕をつかむと、空中から襲いかかろうとしていたアスハのヴィジョンズめがけてフルスイングした。
「きゃあっ!」
その衝撃ではじき出された石つぶてがアスハの足に直撃したようだ。倒れるアスハにアキは駆け寄る。
強い。代々木で戦ったヒゲキと同等に近い力を持っているかもしれない。あの時は5人がかりでも勝てなかったのに、今ここにいるのはアキとアスハの2人だけだ。
「あんまり女子供をイジメるのはシュミじゃねえんだ。そろそろ終いといこうや」
男はポリポリと頭をかいて再び構えをとると、壁や天井を蹴りながら縦横無尽(じゅうおうむじん)に詰め寄ってくる。
キンキィンと至る所から刀が壁を打ちつけていく音が響く。どこからか攻撃がくるのか定められない。気がついたときには、アキの喉元(のどもと)に暗闇の中で銀色に光る切っ先が触れていた。
「……そういや、こっちもまだ名乗りを上げてなかったな。冥途(めいど)の土産(みやげ)に覚えておきな。俺の名前は金王坂ムネヒロ、てめえらホワイトレイブンに、復讐を誓った男の名前だ!」
◆
「それで、このめちゃくちゃな編成の理由は聞かせてもらえるんですかね?」
アキたちとは別のブレインサーバーへ向かう道中、先頭を歩いていたシンが不意に足を止めてコウに問いただした。
「……気づいていたのか」
「当たり前ですよ。たしかにあのアキとかいうやつの力には目を見張るものがありますが、それでも俺たちがあいつに敵わないとは思えない。それっぽくは言ってみせても、こんな構成、論理からは到底外れています」
「……そ、そうね!私もそう思っていたわ!うんうん!」
シンの指摘に、マドカが勢いよく同調する。
「別にそう間違ったことを言ったつもりはないさ。たしかに本来ならば戦力を集中してブレインサーバーを各個撃破していくのが定石(じょうせき)だ。だが私たちに限られたリソースがそれを許してくれない。ならばできるだけ最小限のチームで確実にひとつを落とし、残るもうひとつは、アキの力の覚醒に託(たく)すのが最善だと思ったまでだ」
「……」
「それにシン、お前には一度きちんとアキのことについて説明しておいた方がいいだろう?」
「……そうですね。ホワイトレイブンにいた人間なんて、俺は信用しない」
「……でも!私はアキとずっと行動してたけど、とてもそんな悪い人間には見えないわ!」
「そうだな、マドカにもアキについて本当の話はしていなかったな。私が初めてアキくんと会ったのが……ここ、宮益坂だ」